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鎧とレインコート

メタファーによる比較について、考えてみました。

 

この記事はワクチンの賛否を問うものではありません。

 

昨年、免疫学の権威である大阪大学の宮坂先生が、コロナワクチンについて鎧 と レインコート というメタファーを使って、説明されました。

 

「ワクチンは当初のデータは非常に感染を予防する力が強い。だからまあ我々がちょうど鎧を着たような状態で、鉄砲の弾や槍がきても防げるだろう」と、説明されました。

 

そして、ブレークスルー感染が増えてきたことで、「おそらく我々が当初鎧と思っていたのが意外に薄くて、まあレインコートぐらい、あるいはトレンチコートぐらいかなりの雨は防げるけど、土砂降りは防げないという感じ。」

 

「2回目の人を増やさないと、降ってくる雨の量は減りません。接種の割合を増やせば感染者が減るわけですから、雨作る人が減る。そうするとレインコートでもいけるようになる」とワクチンの効果について、軌道修正 (ああ、これもメタファーワード)されたものです。

 

さて、それぞれのメタファーの機能について考えると、弾や槍よけ目的なら、レインコートなんて着ていても何の役にも立ちません。かたや雨を防ぐことが目的なら、土砂降りの時でも、どう考えても重い鎧よりは、レインコートを選ぶでしょう。

 

鎧もレインコートもそれぞれの機能を補ったり、カバーできるものではないのは明らかです。このように、機能が異なる二つのメタファーは比較対象となるのでしょうか。

 

ソース(メタファーとなるもの)とターゲット(伝えたい事)に分けてみましょう。※1

 

メタファー① 「 鉄砲の弾や槍がきても防げる 」

メタファー② 「かなりの雨は防げる」

 

メタファー①も②も、ターゲットのワクチンのソースとしては、どちらも使えそうです。

 

関連の記事を検索すると、この「鎧とレインコート」はワクチン賛成派にも反対派にもSNSやブログで広く取り上げられていて、中にはメタファーの矛盾に疑問を呈しているものも見かけますが、ほとんどは、鎧 (強) > レインコート(弱)についての意見をそれぞれの立場で表明されています。つまり、これはメタファーとして、ちゃんと受け手に伝わっているということですね。

 

ということで、結果(終点)のチャンクをあげてみます

 

メタファー① 「 鉄砲の弾や槍がきても防げる 」

メタファー② 「かなりの雨は防げる」

 

全て身を守るためのものという共通項が見えてきました。

 

では、ここから 鎧 > レインコート の比較をしてみましょう。

 

私たちがそれぞれのアイテムに持つイメージを考えてみます。

「鎧」:厚い、硬い、頑丈、強そう。

「レインコート」:薄い、柔らかい、破れやすい、弱そう。

 

そして、この二つには 体を覆うもの という共通の特質がありますね。使用目的は異なるけれど、鎧とレインコートは、体を覆って、何かから身を守るという特質は同じです。そうすると、同じ体を覆うものとして見た時、鎧 (強い)> レインコート (弱い)に異を唱える人はまずいないでしょう。

 

そして、鎧 ほどではないけど、レインコートも身を守ることができる(賛成派採用)、鎧のようにレインコートは身を守れない(反対派採用)等のメッセージが、個々の解釈のフィルターを通って理解されるのですね。

 

これは、文脈の中で伝えられたメッセージ

「コロナという災害からワクチンによって身を守ることができる」に鎧とレインコートの共通特質を私たちの無意識が瞬時に自動的に、判断して、メッセージを受け取ってしまうのだと思います。宮坂先生自身も、二つのアイテムの「厚さ」の比較で説明されています。

 

思考的に判断される本来の使用目的の矛盾は無意識にとっては、どうでもいいし、思考は無意識の早さに追いつけないのです。これもまたメタファーがいかにパワフルにメッセージを伝えるかということの一例だと思います。

 

そして、私たちの日常会話のなかでこんなことは山ほど起きているのでしょう。メタファーがいとも簡単に無意識に入って行くこと、それを私たちがどう体験しているのか、探求することにワクワクします。

 

 

※1 参考文献

メタファー

心理療法に「ことばの科学」を取り入れる

ニコラス・トールネケ