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五感を取り戻すとき

私の漠然とした不安は胸の内側でザワザワと動いているように感じられました。

「それは何のようですか?」の問いかけに、それが渦のように、時計と反対方向に回転しながら流れていることに気づきました。圧力のある空気、或いは強い風のように、旋回しながら、内から外へ流れていく、そんな感覚がありました。

 

その渦の強さに、私は動きが取れなくなっていたようです。

やがて、それはゆらゆら揺れる煙になって、銀色の針で開けられた穴から外へと出て行きました。

すると、煙で遮られていた視界が広がり、そこは満天の星空の下だったことに気づきます。

 

質問に答えているうちに、星空は無くなり、漆黒の夜の海だけの世界になりました。

見えるものは微かな波のゆらぎだけで、音のない真っ暗な世界に包まれました。

 

夜の海は朝が来るのをただ待っていました。

やがて、水平線の向こうが少し明るくなって、少しずつ少しずつ、赤みが差して、太陽が顔を出し始めます。少しずつ少しずつ、太陽が上昇を続けるのに従って、世界が色を持ち始め、太陽が高くなるほどに、淡い水色の空とそれを映した海、煌めく白い波、淡いグレーの砂浜が鮮明になります。

 

打ち寄せる波の音が聞こえ、高く飛ぶ鳥の鳴き声が聞こえて、潮の匂いがして、頬に吹き当たるひんやりとした風を感じ、素足が沈む湿った砂の柔らかさが感じられました。

 

「どのような違いがありますか?」の問いに、胸の内側に、もうザワザワさせるものは無いことに気づき、そこには白い光に満ちた空間が心地よく広がっていました。

そして、最初の漠然とした不安も無くなっていました。

 

見上げると一片の白い雲が、頭上にあって、それは、あの針の穴から出て行った煙だったことがわかります。雲はの胸の中にいた時よりも、ずっと居心地のいい朝の空に自由を得たかのように漂っていました。

 

幾度となくセッションを受けると、自分のメタファーの傾向が見えてきます。

夜から朝へと時間が進んだり、モノトーンの世界から色に溢れた世界へ変化したり、そして胸の中にあった雲が空へと帰っていく、本来の場所へと帰っていくというような変化を私は頻繁に体験します。

今回のセッションはそれが全部含まれた、特別バージョンでした。

まるで、不安で遮断されていた五感を一つずつ取り戻していくような、自分に帰っていくような、心地の良い体験でした。